新型コロナウイルスの感染はなかなか終息の兆しが見えません。日本では、2020年4月から2回の緊急事態宣言によって一時的に感染の勢いが鈍化しましたが、今は第4波と言われる感染拡大の時期を迎えています。その要因の一つとして、元のウイルスよりも感染力の強い変異株の出現が考えられています。感染力が強いということは、少ないウイルスの数でも感染が広がるということです。従って、これまでよりも三密の回避を徹底してウイルスに曝される機会を減らすことが重要です。三密は密接、密閉、密集ですが、一つの密でも危険です。例えば、屋外の少人数でも口角泡を飛ばす様な状況は、飛沫を吸入することになり感染の拡大に繋がります。更に、マスクの適切な装着によって吸入するウイルスの数を減らす必要があります。マスク会食は変異株には立ち向かえない可能性が高いので会食を避ける方が安全です。
ところで、今回の新型コロナウイルスや、およそ100年前に世界中に広がったスペイン風邪のインフルエンザウイルスなどのウイルスは、14世紀のヨーロッパで流行した黒死病のペスト菌や、幕末から明治にかけて日本で流行した虎狼痢のコレラ菌などの細菌(バクテリア)とは違い、生物の枠には入っていません。但し、生物の定義は専門家の間でも難しい問題と言われています。現時点では、十分な知見が得られていないという前提で、生物は1) 外界と膜で仕切られている、2) 代謝を行う、3) 複製を作る(遺伝子を残す)、ものと考えられています。動物でも植物でもバクテリアでもこの三条件を満たします。大雑把に言うと、生物は適切な環境の中で、植物のように太陽エネルギーを利用した光合成で生体成分を合成し、動物のように植物などの生体成分を摂取し代謝して得たエネルギーで生体成分を合成し、いずれも遺伝子を複製して種を維持します。バクテリアも光合成、或いは栄養分の代謝で得たエネルギーで生体成分を合成して増殖します。しかしウイルスは光合成も行わず、栄養分を代謝することもありません。インフルエンザウイルスやコロナウイルスはエンベロープと呼ばれる膜で外界とで仕切られていますが、ノロウイルスやポリオウィルスは膜がありません。ウイルスが自己を複製するには宿主の細胞に侵入して、遺伝子やタンパク質の合成に必要な素材を調達しなければなりません。ウイルスの増殖は宿主に大きなダメージを与えます。一般的に良く知られているウイルスは、自らの遺伝子を複製するために最低限必要な数種類から10種類程度のタンパク質の遺伝子だけを持っています。本体のサイズはバクテリアの十分の一程度です。このように生物とウイルスの間には境界があるように思われていました。
しかし、近年、バクテリアに匹敵する大きさのウイルス、2000以上のタンパク質を持つウイルス、翻訳に関連するタンパク質を持つウイルスなど、これまでの概念を覆すような大きく複雑なウイルスが発見されました。一方、ダニや回虫のような寄生虫は宿主を必要とし、宿主にダメージを与える生物です。また、動物の腸内細菌や植物の根粒菌や菌根菌、或いは昆虫の細胞の中でしか棲息できない共生細菌は、宿主にとっても必要な微生物です。このように、生物の多くは、適切な環境の下で他の生物に依存しながら遺伝子をつないでいる点で、ウイルスと変わりません。現在知られている生物種は、地球上に存在する生物種のうちのほんの一部に過ぎないと言われています。実際、探索技術の進歩もあって新しい種が次々と発見されています。今後、生物により近いウイルスや、ウイルスにより近い生物が発見されることは十分に期待できます。
生物の多様性は、自然淘汰によって様々な環境に適応した結果と言われています。今回のシリーズでは、私たちの快適な環境とはとんでもなくかけ離れた環境、即ち極限環境に棲息している生物、特に極限環境微生物を中心に生物に関わる話題を紹介いたします。