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【 連載コラム 】

生物の分類:種、属、科、目、綱、門、界、そしてドメイン

人類がこれまでに分類した(名前が付けられた)生物種は約189万種と言われています。

2021-07-01 14:53

 人類がこれまでに分類した(名前が付けられた)生物種は約189万種と言われています。一方、ある試算によると、まだ名前が付けられていない、或いは発見もされていない生物種は約1000万種と推測されています。私たちが知っている生物種は、地球上に棲息しているだろうと推測できる全生物種の2割にも達しません。特に微生物では、培養できた種(性状がある程度判明して名前が付けられた種ということになります)は1%以下と言われています。ところで微生物は、顕微鏡を使って見える程度の小さな生物、と定義されていますが、分類学的には原核生物、原生生物、菌類に大別できます。今回は生物の分類についてお話いたします。

1. 分類の変遷

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは生物を動物と植物に分けて分類体系を構築し、18世紀にはスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが植物を対象に分類の基礎を築いたと言われています。分類の基本は類似性です。例えば、次世代に子孫を残すことができる個体同士は類似していると言えます。その集合を「種」とします。次に複数の種を比較して形態が似た種同士を「属」とします。同様に似た属同士を「科」にまとめ、似た科同士を「目」、似た目同士を「綱」、更に門、界にまとめます。19世紀には、生物は進化するという考えが台頭し、すべての生物は一つの種から派生したと考えられるようになりました。「種の起源」を著したイギリスの自然科学者チャールズ・ロバート・ダーウィンはこの時代の人です。1866年、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルは単一の祖先から現在の生物に至る系統樹を作成しました。こうなると類似性が系統樹と矛盾してはいけません。系統樹の枝が違う生物同士の外観の形態が似ていたとしても、それは「他人の空似」ということになります。ヘッケルはアリストテレス以来続いていた動物界と植物界の2界説に原生生物界を加えました。20世紀に入ると原生生物から核膜を持たない原核生物を分け、原核生物界、原生生物界、植物界、動物界の4界説が出てきました。人々の行動範囲が広がり、分析技術が進歩すると、それまでの常識を超える生物が発見され、新たな事実が出てきます。1969年には、米国の生物学者ロバート・ホイタッカーは原生生物から真菌を分けた5界説を提案しました。更に、6界説、8界説、修正6界説なども提唱されましたが、あまり広がらなかったようです。これらと並行して遺伝子であるDNAの系統解析が進みました。そして1990年、米国の微生物学者カール・ウーズは3ドメイン説を提唱しました。5界説と3ドメイン説について、もう少し説明いたします。

2. 5界説

 生物は細胞で構成されています。細胞は細胞膜で囲まれており、その内側を細胞質と言います。細胞質には遺伝情報を持った遺伝子DNAが、核膜と呼ばれる膜で囲まれているか、核膜がないかの2種類の形態で存在します。そこで核膜を持たないMonera(原核生物界)と核膜を持つ真核生物に分けられます。真核生物は栄養摂取の様式からProtista(原生生物界)、Fungi(菌類界)、Plantae(植物界)、Animalia(動物界)に分けられます。原核生物界には細菌(バクテリア)、原生生物界にはアメーバやゾウリムシ、菌類界にはキノコ、カビ、酵母などが含まれます。植物界は多細胞の光合成生物、動物界は多細胞の栄養を捕食する生物と言えます。因みにヒトは、動物界(Animalia)、脊索動物門(Chordata)、哺乳綱(Mammalia)、霊長目(Primates)、ヒト科(Hominidae)、ヒト属(Homo)、ヒト(sapiens)に分類されます。

3. 3ドメイン説

 遺伝子DNAには個体の形成に必要なタンパク質の設計図が書き込まれています。DNAからタンパク質を合成するには、DNAを鋳型としてもう一つの遺伝子であるRNAを合成します。そのRNAはメッセンジャーRNAと呼ばれ、細胞質に存在するリボソームという細胞小器官上で、タンパク質合成の鋳型になります。つまり、生物はDNAからRNA、そしてタンパク質を合成するという経路を普遍的に持っています。これが分子生物学のセントラルドグマです。この中で一役を担うリボソームはRNAとタンパク質で構成されています。リボソームの設計図もDNAに書き込まれており、種に特有であることがわかっています。そこでリボソームの設計図の相同性を比較すると、大きく3つに分かれることがわかりました。それが3ドメイン説で、原核生物、古細菌、真核生物です。「ドメイン」は「界」の上位の分類です。つまり、真核生物ドメインの中に、原生生物界、菌類界、植物界、動物界が含まれます。

 古細菌にはDNAを囲う核膜はないので、5界説では原核生物に分類されていました。しかも熱水鉱床のような原始の地球環境に近いと考えられている環境に棲息しているので、「古細菌」と名付けられました。しかし、細胞壁やメッセンジャーRNAの構造は原核生物よりも真核生物に近く、細胞膜の脂質は原核生物にも真核生物にも見られない特殊な構造です。3ドメイン説によると、生物の共通祖先から最初に原核生物が分かれ、次に古細菌と真核生物が分かれたことになります。この系統樹は衝撃的です。原核生物と真核生物のギャップは大きく、その間に位置する或いは位置した生物は長い間謎でしたが、どうやらそれが古細菌のようです。1990年代には古細菌という名称を変えようという動きが出てきたのですが、いまだに古細菌と呼ばれています。