私、安全性おじさんの弟子は、いよいよ本日から安全性情報についてお話しを開始します。皆さんへの最初のご挨拶からだいぶ月日は経ちましたが、安全性情報のお話しを翻訳に関することも含めて面白おかしく、ただし役に立つ情報をお伝えしたいと思います。
ところで、私は名前を募集してましたが、まだ名前を付けてもらってません。皆さん、どうか私に名前をつけてください。
さて、安全性情報を理解するには、最初に有害事象というのを理解する必要があります。では、この有害事象とはなんでしょうか?
有害事象を議論するためには、必ず患者さんとか被験者さん(臨床試験も安全性情報に深く関わるので、かならずしも患者さんだけではありません)が薬を投与される状況がなくてはなりません。薬を投与されない状態の患者さんや被験者さんではこの話題はおきません。
では、有害事象とはなんであるかを簡単に説明します。
薬(医薬品)を投与された患者または被験者に起こるあらゆる好ましくない医療上の出来事です。
その出来事と投与された薬(医薬品)との関連性(因果関係)は必ずしも明らかなものでなくてもよい。 |
でも上記の説明はあくまでも簡略した説明です。上記の説明で大雑把に内容を理解したら、この用語の定義が確認できる国内行政のWebページをご紹介しましょう。PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)のWebページです。
このWebコンテンツの中に有害事象の定義が確認できるICHガイドランの紹介ページがあります。有害事象の定義が確認できるガイドラインは、ICHの会議の中で決定されていきました。
ICHは、The International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Useの略です。PMDAのWebページのICHの紹介は、次のようになっております。(余談ですが、HarmonisationがHarmonizationになってないことに注意してください。これは固有名詞です。翻訳のときに使用するときは、固有名詞は記載通りにしなければなりません。MHLW(厚生労働省)のスペルアウトもMinistry of Health, Labour and Welfareで、LabourでありLaborではありません。イギリス綴りになっているのをアメリカ綴りに修正してはいけません)
「ICHは、医薬品規制当局と製薬業界の代表者が協働して、医薬品規制に関するガイドラインを科学的・技術的な観点から作成する国際会議で、他に類がない場となっています。」
詳しくは以下のURLをご覧ください。
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0014.html
話しをPMDAのWebページで紹介しているICHが定義している有害事象の話しに戻しましょう。
有害事象を定義しているICHのガイドラインは2種類あります。治験中に使用される医薬品と承認後に使用される医薬品に関する2つのガイドラインです。ICH E2A (治験中の安全性)、E2D(承認後の安全性)です。ICHのガイドラインは4つの領域に区分されます。Quality(品質)、Safety(安全性)、Efficacy(有効性)、Multidisciplinary(複合領域)です。有害事象は安全性に関わる事柄なのでSafety(安全性)の中に有害事象を定義しているガイドラインがあるように思いますが、Safety(安全性)は非臨床に関連するガイドラインを扱っています。実は、有害事象は、Efficacy(有効性)の中のガイドランに記載されております。
以下にICH E2A (治験中の安全性)、E2D(承認後の安全性)の有害事象の定義をみていきましょう。
PMDAのページでは、有害事象を次のように紹介してます。
ICH E2A (治験中の安全性)
Adverse Event (or Adverse Experience)
Any untoward medical occurrence in a patient or clinical investigation subject administered a pharmaceutical product and which does not necessarily have to have a causal relationship with this treatment. An adverse event (AE) can therefore be any unfavourable and unintended sign (including an abnormal laboratory finding, for example), symptom, or disease temporally associated with the use of a medicinal product, whether or not considered related to the medicinal product. 有害事象(Adverse Event(or Experience) 医薬品が投与された患者または被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと。必ずしも当該医薬品の投与との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。 つまり有害事象とは,医薬品が投与された際に起こる,あらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴侯 (臨床検査値の異常を含む),症状,または病気のことであり,当該医薬品との因果関係の有無は問わない。 |
ICH E2D(承認後の安全性)
Adverse Event (AE)
An adverse event is any untoward medical occurrence in a patient administered a medicinal product and which does not necessarily have to have a causal relationship with this treatment. An adverse event can therefore be any unfavorable and unintended sign (for example, an abnormal laboratory finding), symptom, or disease temporally associated with the use of a medicinal product, whether or not considered related to this medicinal product. 有害事象 有害事象とは、医薬品が投与された患者に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事であり、必ずしも当該医薬品の投与との因果関係があるもののみを指すわけではない。すなわち、有害事象とは、医薬品の使用と時間的に関連のある、あらゆる好ましくない、意図しない徴候(例えば、臨床検査値の異常)、 症状又は疾病のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わない。 |
上記の2種類の文章の内容で大きくことなるのは、ICH E2A (治験中の安全性)の対象は、「患者または被験者」(黄色部:in a patient or clinical investigation subject)になっていますが、ICH E2D(承認後の安全性)の対象は、「患者」(in a patient)のみです。また、「医薬品」(ピンク部)に対応する英語は、ICH E2A (治験中の安全性)は、「pharmaceutical product」と「medicinal product」の2種類、ICH E2D(承認後の安全性)では「medicinal product」の1種類です。よく英語と日本語を比較すると、「医薬品の投与」(青部)にあたる英語の部分が「treatment」になっていることに気が付くでしょう。安全性情報翻訳では「treatment」という単語は「治療」という意味で使うよりも「投与」という意味で良く使用されます。例えば、「study treatment」は「治験薬の投与」という意味で使用されます。
他の言葉を続けて見てみましょう。
有害事象の英語にあたる「adverse event」は、省略して「AE」と表記されることがわかります。
ちょっと硬い表現の「untoward」が使用されてますが、not favorableの意味です。意味が同じですが、「unfavourable」(イギリス綴り;ICH E2A (治験中の安全性))と「unfavorable」(アメリカ綴り;ICH E2D(承認後の安全性))が使用されてます。
以下が、PMDAのICHガイドラインの紹介ページのURLです。
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0024.html
以下が、ICHのOfficial SiteのURLです。
https://www.ich.org/
次回は有害事象と副作用の関係を学びましょう。