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【 連載コラム 】

敵を知り己を知れば・・・・・(2)

放射線を浴びることを「被ばく」と言います。今回は、被ばくを回避、或いは被ばく量を抑制する、即ち放射線防護に有用な情報を紹介します。

2020-01-21 16:40

会員限定コラム

 放射線を浴びることを「被ばく」と言います。今回は、被ばくを回避、或いは被ばく量を抑制する、即ち放射線防護に有用な情報を紹介します。最初に、放射線を放出する原子である放射性同位元素の「半減期」について説明します。次に、体の外から放射線を浴びる外部被ばくと、放射性同位元素を摂取して体の中から放射線を浴びる内部被ばくに対する防護法を紹介します。

1. 半減期

 α線とβ線を放出する放射性同位元素は、陽子の数が変わるので別の元素になります。γ線を放出する放射性同位元素は不安定な状態から安定な状態になりますが元素は変わりません。いずれにしても元の原子の数は放射線の放出、即ち、崩壊によって減ります。原子の数が最初の半分になるまでの時間を半減期と言い、常に一定です。例えば、2000個の原子が存在し、その半減期が10日だとすると、最初の10日のうちに1000個が崩壊します。しかし、次の10日に崩壊する数は500個です。更に次の10日では250個です。即ち、放射性同位元素は指数関数的に減少します。同じ原子であるにもかかわらず、時間の経過とともにその原子が放射線を放出するまでの時間が長くなります。変な話と思われますが、これが量子の世界のルールのようです。半減期は放射性同位元素によってかなり異なります。例えば、癌の治療に用いるコバルト60は5.3年、セシウム137は30年、診断に用いるフッ素18は110分など様々です。フッ素18は1日で最初の放射能の10-4(1万分の1)、2日もすると10-8(1億分の1)になります。一方、セシウム137は人の一生をかけても1/4程度です。
 半減期が極めて短い放射性同位元素を扱う場合には、時間を置くことが被ばく量の低減につながります。
 ところで、放射性同位元素を体内に取り込んだ場合、代謝などによって排泄されます。体内の放射性同位元素の量が半分になる時間を生物学的半減期と言います。それに対して上述の半減期は物理学的半減期と言います。生物学的半減期も物理学的半減期と同じように指数関数で表されます。単に半減期というと、多くの場合は物理学的半減期を指します。

2. 外部被ばくの防護

2-1. 距離を取る

 α線やβ線は飛程が短いので、放射性同位元素から少し離れれば外部被ばくはほぼ無視できます。一方、γ線やX線の飛程はかなり長いので、距離を取ることは効果的ではないように思えます。しかし、被ばく量は放射線を受ける面積に比例するので、放射線源からの距離の二乗に反比例して減ります。

2-2. 被ばく時間を減らす

 当たり前のことですが、作業時間に比例して被ばく量は減ります。

2-3. 遮蔽する

 α線やβ線は薄い布やゴムの手袋などでかなり遮蔽できます。γ線やX線の遮蔽には鉄や鉛のような原子番号の大きな金属が効果的です。

3. 内部被ばくの防護

3-1. 防護具をつける

 放射性同位元素は飲み込まれたり、吸い込まれたり、或いは皮膚を透過して体内に入ります。創傷部は要注意です。そこで、マスク、ゴーグル、手袋などが有用です。

3-2. 排泄を早める

 体内に取り込んでしまうと、距離を取ることはできません。遮蔽もできません。特にα線はほぼ全エネルギーが吸収されるので極めて危険です。放射性同位元素が一旦体内に取り込まれると、体外に出ていくまで被曝し続けることになります。一刻も早く体外に排泄することが重要です。放射性同位元素が消化管に存在する場合は、胃洗浄、催吐剤や下剤が有効です。腸管での吸収を防ぐために、ある種のイオン交換樹脂やキレート剤は、放射性同位元素と結合して糞便や尿とともに排泄されるので有効とされています。放射性同位元素除去剤として承認された医薬品もあります。また、ヨウ素の安定同位元素をあらかじめ摂取すると、ヨウ素の放射性同位元素の甲状腺への蓄積を抑制できます。そのほか、放射性同位元素の種類や吸入経路によっては肺洗浄、利尿剤の服用なども効果が期待できます。

 キュリー夫人はウラン鉱石から精製したラジウムをポケットに入れて持ち歩いたり、机の上に置いて、夫と共にラジウムが発する青い光を見つめていたと言われています。外部被ばく量は相当な量と思われます。更に、換気もないような実験室で、粉砕されたウラン鉱石を乳鉢ですりつぶしていたそうですから、ウランやその崩壊によって生成した放射性同位元素(娘核種と言います)を含む粉塵を吸い込んでいたと考えられます。娘核種の中でもポロニウム210は半減期が138日であり、ラジウム226の1600年の約1/5000です。ポロニウム210とラジウム226のα線のエネルギーはほぼ同じなので、同じ重さであれば、体内にとどまっている間にポロニウム210の被ばく量はラジウム226の約5000倍にもなります。キュリー夫人の再生不良性貧血による死は、ポロニウム210の内部被ばくの寄与が大きいと言われています。