今回は「予測できない副作用」について学習しましょう。
「予測できない副作用」という表現は治験薬を投与された際に起こる副作用について使用します。では、「予測できない副作用」とはどのような副作用を言うのでしょうか?
前回のお話にでも引用した「ICH E2A (治験中の安全性)」を確認して見ましょう。
ICH E2A (治験中の安全性)より引用英語
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上記の文章から理解できるように、「予測できない副作用」とは以下のように理解できます:
―発現した副作用が「治験薬概要書」に記載されていない副作用。
―発現した副作用が「治験薬概要書」に記載されていても、性質や重症度が記載内容と一致しない副作用。
さらに深くこれらの文章を理解するには、「治験薬概要書」とはなにか、「性質や重症度が記載内容と一致しない」とはどのようなことを言っているのかを理解する必要があります。
では、最初に「治験薬概要書」について解説します。「治験薬概要書」は、英語では「Investigator’s Brochure」と言います、良く略して専門家はIBと言ってます。製薬企業によっては、目次の組み立て方、各章の名称などが若干異なることがありますが、おおむね次のような内容になっております(ただし、ここでは大まかな項目のみ示します。また、赤の太字の部分の7.臨床以下の項目は、使用する治験薬概要書がどの臨床試験段階かにより、どの項目が入るかは決まります。臨床試験をまだ経験してない治験薬の治験薬概要書は7.臨床は記載されません。さらに、今回の提示した項目は*一変治験も考えて項目を載せています。)。また、「治験薬概要書」は治験を行う時に治験依頼者が必ず用意しなければならないドキュメント(資料)で、試験責任医師、治験分担医師はその内容を完全に理解しておかなければならいとされてます。
*一変治験とは、ある医薬品がすでに承認を受けた後に、投与経路の変更、効能効果の追加、剤型の追加などのために行う治験のこと。
治験薬概要書の目次例:
1.要約
2.序文
3.物理的・化学的および薬剤学的性質ならびに製剤組成
3.1.原薬
3.1.1.名称、分子式・分子量および構造式
3.1.2.原薬の物理的・化学的性質
3.1.3.原薬の安定性
3.2.製剤
3.2.1.製剤の成分および外観
3.2.2.製剤の安定性および貯法
4.非臨床試験:薬理作用
4.1.薬効薬理
4.2.安全性薬理試験
5.非臨床試験:毒性
5.1.単回投与毒性試験
5.2.反復投与毒性試験
5.3.生殖発生毒性試験
5.2.その他の特殊毒性
6.非臨床試験:薬物動態
6.1.吸収
6.2.分布
6.3.代謝
6.4.排泄
7.臨床試験
7.1.薬物動態
7.2.臨床効果
7.3.臨床薬理試験:忍容性試験
7.4.探索的試験:容量反応探索試験
7.5.検証的試験
8.製造販売後の使用経験
9.安全性のまとめ
9.1.国内臨床試験での安全性のまとめ
9.2.市販後再審査期間中の安全性のまとめ
9.3.XXXX製造販売後の自発報告のまとめ
9.4.国内承認以降に海外で認められた重篤な副作用
10.データの要約および治験責任医師に対するガイダンス
10.1.期待される効能・効果
10.2.予想される副作用および安全性上の配慮
11.付録
付録1:使用成績調査での副作用発現状況
付録2:特別調査での副作用発現状況
付録3:特別調査での時期別副作用発現状況
付録4:XXXX市販後の自発報告のまとめ
付録5:国内承認以降に海外で認められた重篤な副作用一覧
付録6:XXXXの添付文書
最後に「性質や重症度が記載内容と一致しない」とはどのような意味なのかを考えていきたいと思います。
例えば、ある有害事象が発現し、今までは患者はその有害事象から回復していたのが、回復できなくなった、後遺症が残るようになった(可逆的から非可逆的に変わった)、このようなことが起きると「性質が記載内容と一致しない」と言います。
次に、「重症度が記載内容と一致しない」とは、どのようなことを示しているのでしょうか。例えば、発現した疾患で説明すると、今まで「間質性腎炎」と報告されていたのが、「急性腎不全」と報告された、「肝炎」と報告されたいたのが「劇症肝炎」と報告されたなどです。
「間質性腎炎」や「肝炎」では、亡くなることはあまりありませんが、「急性腎不全」や「劇症肝炎」は死に至るリスクが高くなります。
次回は有害事象の重篤度について学びましょう。