私たちは、日常生活で自然環境に由来する放射線を浴びています。その量は地球上の地域によって違いがあり、通常は避けることができません。また、健康診断や病気の治療を目的とした医療機器の放射線を浴びています。今回は自然界の放射線や医療放射線による被ばく量を紹介します。それとともに、健康に影響を及ぼす被ばく量について触れます。最初は、被ばく量に関連する放射線や放射性物質に関する単位です。
1.放射線の単位
ベクレル(Bq)
放射性同位元素が1秒間に壊変する数です。放射能、或いは放射性物質の量を表すときに使います。1秒間に1回壊変すると1Bqです。
1-2. グレイ(Gy)
物質が吸収するエネルギーで、吸収線量と呼ばれます。1kgの物質が1ジュール(Joule)のエネルギーを吸収した場合、吸収線量は1Gy(1 J/kg)です。ちなみに、1gの水の温度を1℃高くするのに必要なエネルギーが1カロリー(cal)で、1calは約4Jに相当します。「カロリー」は比較的なじみのあるエネルギーの単位だと思います。1Gyは約0.25calに相当します。
1-3. シーベルト(Sv)
実効線量や等価線量と呼ばれます。被ばくによって吸収するエネルギーが同じでも、体内に生成する活性種が密集しているか、分散しているかによって人に与える影響は違います。吸収線量が同じ場合、アルファ線の影響はベータ線やガンマ線の20倍とされています。ベータ線とガンマ線の場合、1Gyは1Svです。この影響は細胞分裂が盛んな臓器とそうではない臓器でも異なります。シーベルトは吸収線量に放射線の種類と、臓器や組織による効果を考慮した被ばく線量の単位です。
2. 自然界の放射線
2-1. 宇宙線
太陽フレアや銀河の超新星爆発などに由来する宇宙線の地上での被ばく線量は、日本では年間0.38mSvです。高度1万メートルの放射線量は地上の100倍近くになります。飛行機で東京からニューヨークまで1往復すると、0.1mSvの被ばく線量に相当すると言われています。大気の厚みは、地球の直径のわずか1/1000ですが頼りになりますね。
2-2. 地中の放射性物質
地中にはウランのような天然の放射性同位元素が存在します。娘核種の放射線も含めた被ばく線量は、ウラン鉱脈の近くでは当然高くなります。日本では年間平均0.3mSvです。インド南部のケララでは9.2mSv、ブラジルのガラパリでは5.5mSvもの高線量であることが知られています。
2-3. ラドン
ラドン222とラドン220は、各々ウランとトリウムの娘核種の一つで、不活性な気体です。地中からしみ出て屋内にも存在します。ラドンに由来する被ばく線量は日本では年間0.48mSvです。
2-4. 食品中の放射性物質
カリウム40は天然に存在するカリウムの放射性同位元素で、存在比は全カリウムの0.01%です。炭素14は大気中の窒素に宇宙線が当たって生成する炭素の放射性同位元素で、存在比は極めてわずかですが、地球上のあらゆる炭素化合物に含まれます。カリウムはミネラルとして、炭素はタンパク質や糖分や脂肪として摂取しますので、これらの放射性同位元素も取り込み、常に体内に存在します。体重60kgの人の体内に存在するカリウム40の放射能は約4,000Bq、炭素14は約2,500Bqです。この他、ルビジウムや鉛、ポロニウムの放射性同位元素も通常の食品に含まれ、常に摂取します。これらの放射性同元素による被ばく量は、年間0.99mSvに相当します。
このような自然界の放射線による年間被ばく線量の合計は、日本では2.1mSvと言われています。
3. 医療放射線
診断や治療に様々な放射線が利用されています。放射線の利用分野として次の機会に紹介する予定ですので、今回はよく知られている診断項目と1回当たりの被ばく量を紹介するにとどめます。
3-1. 胸部レントゲン撮影:0.06mSv(直接撮影)
3-2. 上部消化管検査(胃のバリウム検査):3~5mSv
3-3. マンモグラフィー:2mSv
日本人一人当たりの医療被曝は年間平均3.8mSvと言われており、世界的には多い方です。
4. 被ばく線量と健康への影響
私たちの体を構成している細胞の放射線に対する感受性は一様ではありません。細胞分裂が盛んで、分化の程度が低いほど、言い換えると幹細胞の状態に近いほど感受性が高いと言えます。具体的には、骨髄・リンパ組織の感受性が最も高く、次は精巣・卵巣、以下、消化器粘膜・小腸絨毛、皮膚・汗腺・水晶体、肺・腎臓・肝臓・甲状腺、血管・筋肉・骨、神経の順になります。
それでは、健康への影響が出る被ばく量はどの程度でしょうか。
全身被ばくの場合、一度に浴びる量が100mSv以下では臨床症状が確認されていません。500mSvで末梢血中のリンパ球が減少し、1000mSvでは10%の人が悪心や嘔吐を催すと言われています。また、被ばくしていない人を1とすると、がんの相対リスクは、年間100mSv未満では1(即ち、検出限界以下です)、100~200mSvで1.02~1.08、200~500mSvで1.11~1.22、500~1,000mSvで1.4、1,000~2,000mSvで1.6~1.8です。ちなみに、受動喫煙者は1.02~1.03、運動不足では1.15~1.19、喫煙者は1.6とされています。
自然放射線や医療放射線による健康への影響は、他の要因の中に埋もれてしまいます。地上で暮らし、年に1回の健康診断を受ける程度であれば、日常浴びている放射線は問題のない量と言えます。